「6つの係数」とは
フィナンシャル・プランナー(以下FP)の資格試験において避けては通れない項目として、資金計画を立てる際の「6つの係数」があります。
6つの係数はFP資格の中で最も合格しやすい3級から出題範囲となっており、最初に学ぶ「ライフプラニングと資金計画」という単元の最初の方に登場するのですが、紛らわしいので、初心者泣かせと言われています。
例えばこんな問題です。
ライフプランニングにおける各種係数を用いた必要額の算出に関する次の記述の空欄(ア)、(イ)にあてはまる数値の組み合わせとして、最も適切なものはどれか。なお、算出に当たっては下記資料の係数を乗算で使用するものとし、手数料や税金等については考慮しないものとする。
毎年年末に一定額を積み立てながら年利率3%で複利運用した場合、20年後に1,500万円となる貯蓄計画においては、毎年の積立金額は(ア)円となる。また、年利率3%で複利運用しながら、毎年年末に200万円を10年間受け取る場合においては、当初の元金として(イ)円が必要となる。
資料:年利率3%の各種係数
10年 20年 終価係数 1.3439 1.8061 現価係数 0.7441 0.5537 減債基金係数 0.0872 0.0372 資本回収係数 0.1172 0.0672 年金終価係数 11.4639 26.8704 年金現価係数 8.5302 14.8775
- (ア)558,000 (イ)17,060,400
- (ア)558,000 (イ)14,877,500
- (ア)744,100 (イ)17,060,400
- (ア)744,100 (イ)14,877,500
(FP2級 2017年9月試験(学科)第3問)
多くの場合、上記の過去問のように6つの係数は数値として与えられ、条件に合う値を使って計算するだけなので、「〇〇のときは△△係数」と丸暗記してしまえば得点することは難しくありません。
私は2020年1月の試験でFP3級に合格しましたが、3級に向けて勉強していた際は丸暗記で乗り切りました。
現在2020年5月の試験でFP2級の合格に向けて勉強しているところですが、多少余裕が出てきたためか、私の興味はどうやって各係数が算出されているのか?に移りました。
いくつかのテキストやWebサイトを探したのですが、残念ながら6つの係数の算出方法が書かれているものは見つかりませんでした。
無ければ、自分でやればいいじゃない!
ということでペンとノートでガリガリ計算してみたところ、6つの係数を算出するための公式を数学的に導出することができました。更に、6つの係数にはいくつも面白い関係があることも発見しました。
FP合格には不要な知識ですが、私と同じように6つの係数がどのように求められているのかモヤモヤしていた方、FPには興味ないけど単純に数学が好きな方、どっちでもないけど暇な方は、是非以下を読み進めていただければと思います。
なお、理解するには高校数学の知識が必要となります。
終価係数・現価係数
まずは比較的理解しやすい「終価係数」と「現価係数」の導出をしてみます。なお、以降の議論では年利を\(r(\neq 0)\),年数を\(n\)とします。
また、FP試験における6つの係数を用いた問題同様、利息にかかる所得税等の税金は考慮しないものとします。
終価係数
終価係数とは、現在ある元本を複利で運用した際の一定期間後の元利合計金額を求める際に、元本に乗じる係数です。
(例)100万円を年利2%で5年間運用した際の元利合計金額はいくらか
終価係数は利率\(r\)と年数\(n\)の関数なので、\(S(r,n)\)とおきます。
元金を\(x(\neq 0)\)としたときに、元利合計が\(S(r,n)x\)になります。複利運用であれば元利合計は毎年\((1+r)\)倍になりますので、
\(S(r,n)x=x(1+r)^n\)
つまり
$$S(r,n)=(1+r)^n$$
が求まります。初項\((1+r)\)で公比が\((1+r)\)の等比数列の一般項そのものですね。
現価係数
現価係数とは、一定期間後の元利合計金額が決まっていて、その金額に乗じることで現在必要な元本を算出する際に用いる係数です。
(例)年利2%で5年後に元利合計100万円を達成するのに必要な元本はいくらか
現価係数を\(G(r,n)\)、\(n\)年後の元利合計金額を\(x(\neq 0)\)とおきます。
現在必要な元本は現価係数の定義より\(G(r,n)x\)ですので、これを年利\((1+r)\)で\(n\)年複利運用した際の元利合計金額が\(x\)となることから、
\(G(r,n)x(1+r)^n=x\)
つまり
$$G(r,n)=\frac{1}{(1+r)^n}$$
が求まります。
終価係数と現価係数の関係
以上の結果化から、面白いことがわかります。お気づきの方もいると思いますが、
$$G(r,n)=\frac{1}{S(r,n)}$$
が成り立っているのです。
「終価係数と現価係数は逆数の関係にある」と言えるのですね。
年金終価係数・減債基金係数
つづいて、年金終価係数と減債基金係数の導出にチャレンジしてみましょう。どちらも「一定金額づつ積み立てていく」という設定の際に登場する係数です。
年金終価係数
年金終価係数とは、毎年一定金額ずつ積み立てるとき、その積立額に乗じることで一定期間後の元利を算出する際に用いる係数です。
(例)毎年100万円を年利2%で5年間積み立てた際の元利合計金額はいくらか
覚えるだけなら「年金」の「終(最後)」を求めると暗記するとよいでしょう。
それでは導出を始めます。
年金終価係数を\(NS(r,n)\)、毎年の積み立て額を\(x(\neq 0)\)とおきます。
\(k(1\leq k \leq n)\)年後の元利合計金額を\(a_k\)とすると、以下の漸化式が成り立ちます。
\(a_{k+1}=(1+r)a_k+x\)
\(a_{k+1}=pa_k+q\)の形の二項間漸化式は特性方程式\(α=pα+q\)を用いて解けることは、高校数学の数列を習った方なら覚えているかと思います。
ということで、\(a_1=x\)と特性方程式を用いて求めた\(α=-\frac{x}{r}\)を用いて漸化式を解いて一般項\(a_l\)を求めます。
\(a_{k+1}=(1+r)a_k+x\)
\(a_{k+1}+\frac{x}{r}=(1+r)(a_k+\frac{x}{r})\)
\(a_l=(1+r)^{l-1}(a_1+\frac{x}{r})-\frac{x}{r}\)
\(~~~=(1+r)^{l-1}(x+\frac{x}{r})-\frac{x}{r}\)
\(~~~=\frac{x}{r}\{(1+r)^{l}-1\}\)
\(NS(r,n)\)の定義より\(NS(r,n)x=a_n\)となるので、
\(NS(r,n)x=\frac{x}{r}\{(1+r)^{n}-1\}\)
よって
$$NS(r,n)=\frac{(1+r)^{n}-1}{r}$$
が求まりました。意外とシンプルな形になりましたね。
減債基金係数
続いて、減債基金係数です。
減債基金係数とは、一定期間後の元利合計金額が決まっていて、その金額に乗じることで毎年の積み立て額を算出する際に用いる係数です。
(例)年利2%で5年間積み立てて100万円用意するために必要な毎年の積み立て額はいくらか
この係数は名前と実態が一致していないので覚えにくいですね。「基金」は「年金基金」などから何となく積み立てのイメージが湧きますが、増えていくのに「減債」というのは直感に反します。
とまあちょっと愚痴っぽくなりましたが、今回のテーマは係数の名前ではないので、導出に進みましょう。
減債基金係数を\(GK(r,n)\)、\(n\)年後の元利合計金額を\(x(\neq 0)\)とおきます。
減債基金係数の定義から毎年の積み立て額は\(GK(r,n)x\)となりますので、
\(k(1\leq k \leq n)\)年後の元利合計金額を\(b_k\)とすると、以下の漸化式が成り立ちます。
\(b_{k+1}=(1+r)b_k+GK(r,n)x\)
これも\(a_{k+1}=pa_k+q\)の形の二項間漸化式ですので、\(b_1=GK(r,n)x\)に注意して一般項\(b_l\)を求めます。
\(b_{k+1}+\frac{GK(r,n)x}{r}=(1+r)(b_k+\frac{GK(r,n)x}{r})\)
\(b_l=(1+r)^{l-1}(b_1+\frac{GK(r,n)x}{r})-\frac{GK(r,n)x}{r}\)
\(~~~=(1+r)^{l-1}(GK(r,n)x+\frac{GK(r,n)x}{r})-\frac{GK(r,n)x}{r}\)
\(~~~=\frac{GK(r,n)x}{r}\{(1+r)^{l}-1\}\)
\(n\)年後の元利合計金額\(b_n\)が\(x\)に等しくなるので、
\(b_n=x\)
\(\frac{GK(r,n)x}{r}\{(1+r)^{n}-1\}=x\)
よって
$$GK(r,n)=\frac{r}{(1+r)^n-1}$$
が求まります。
年金終価係数と減債基金係数の関係
ここでも
$$NS(r,n)=\frac{1}{GK(r,n)}$$
が成り立っている、つまり「年金終価係数と減債基金係数は逆数の関係にある」と言えます。
ここまでくると、残りの二つの係数も、もしかして…という期待が湧いてきます。
資本回収係数と年金現価係数
最後に、資本回収係数と年金現価係数を導出していきます。
これらの2つは、「元本を複利で運用しつつ一定金額ずつ取り崩していく」というシーンで使います。複利運用しつつも一定額を切り崩すため元利合計金額が減っていく、というのが今までの単純なシーンと比べてちょっと複雑ですね。
資本回収係数
資本回収係数とは、一定期間複利運用するための元本額が決まっていて、その元本に乗じることで毎年の受取額を算出する際に用いる係数です。
(例)100万円を年利2%で運用しながら5年間で切り崩す際の毎年の受取額はいくらか
それでは、資本回収係数を\(SK(r,n)\)、元本を\(x(\neq 0)\)とおいて導出してみましょう。
毎年の受取額は、\(SK(r,n)\)の定義より\(SK(r,n)x\)となります。
\(k\)年後の元利合計金額を\(c_k\)とおくと、\((k+1)\)年後の元利合計金額\(c_{k+1}\)は
「\(c_k\)を年利\(r\)で1年運用した後に\(SK(r,n)x\)だけ減らした額」
になりますので、以下の漸化式が成り立ちます。
\(c_{k+1}=(1+r)c_k-SK(r,n)x\)
またまた\(a_{k+1}=pa_k+qr\)の形の二項間漸化式ですので、\(c_1=(1+r)x-SK(r,n)x\)に注意して解いていきます。
\(c_{k+1}=(1+r)c_k-SK(r,n)\)
\(c_{k+1}-\frac{SK(r,n)x}{r}=(1+r)(c_k-\frac{SK(r,n)x}{r})\)
よって一般項\(c_l\)は、
\(c_l=(1+r)^{l-1}(c_1-\frac{SK(r,n)x}{r})+\frac{SK(r,n)x}{r}\)
\(~~~=(1+r)^{l-1}((1+r)x-SK(r,n)x-\frac{SK(r,n)x}{r})+\frac{SK(r,n)x}{r}\)
\(~~~=(1+r)^{l}(x-\frac{SK(r,n)x}{r})+\frac{SK(r,n)x}{r}\)
\(n\)年後の元利合計金額が0、つまり\(c_n=0\)ですから、
\(0=(1+r)^{n}(x-\frac{SK(r,n)x}{r})+\frac{SK(r,n)x}{r}\)
\(0=(1+r)^{n}(1-\frac{SK(r,n)}{r})+\frac{SK(r,n)}{r}\)
\(\{(1+r)^{n}-1\}SK(r,n)=r(1+r)^{n}\)
よって
$$SK(r,n)=\frac{r(1+r)^{n}}{(1+r)^{n}-1}$$
が求まります。
年金現価係数
最後は年金現価係数です。
年金現価係数とは、毎年一定額受給する金額が決まっていて、その額に乗じることで元本を算出する際に用いる係数です。
(例)年利2%で運用しながら5年間毎年100万円受け取りたい場合に必要な元本はいくらか
年金現価係数を\(NG(r,n)\)、毎年の受取額を\(x(\neq 0)\)とおいて導出してみましょう。
\(k\)年後の元利合計金額を\(d_k\)とおくと、\((k+1)\)年後の元利合計金額\(d_{k+1}\)は
「\(d_k\)を年利\(r\)で1年運用した後に\(x\)だけ減らした額」
になりますので、以下の漸化式が成り立ちます。
\(d_{k+1}=(1+r)d_k-x\)
漸化式を解いて一般項\(d_l\)を求めましょう。
\(NG(r,n)\)の定義から元本は\(NG(r,n)x\)であるため、\(d_1=(1+r)NG(r,n)x-x\)であることに注意してください。
\(d_{k+1}-\frac{x}{r}=(1+r)(d_k-\frac{x}{r})\)
\(d_l=(1+r)^{l-1}(d_1-\frac{x}{r})+\frac{x}{r}\)
\(~~~=(1+r)^{l-1}((1+r)NG(r,n)x-x-\frac{x}{r})+\frac{x}{r}\)
\(~~~=(1+r)^{l}(NG(r,n)x-\frac{x}{r})+\frac{x}{r}\)
\(n\)年後の元利合計金額が0、つまり\(d_n=0\)ですから、
\(0=(1+r)^{n}(NG(r,n)x-\frac{x}{r})+\frac{x}{r}\)
よって
$$NG(r,n)=\frac{(1+r)^n-1}{r(1+r)^n}$$
が求まります。
資本回収係数と年金現価係数の関係
やはり期待した通り、
$$SK(r,n)=\frac{1}{NG(r,n)}$$
が成り立っている、つまり「資本回収係数と年金現価係数は逆数の関係にある」ことがわかりました。
6つの係数の関係
ここまでで6つの係数の数式化を行いました。
改めて、6つの係数の数式を表にまとめてみましょう。
係数名 | 数式(年利\(r\)・年数\(n\)) |
終価係数 | $$(1+r)^n$$ |
現価係数 | $$\frac{1}{(1+r)^n}$$ |
年金終価係数 | $$\frac{(1+r)^{n}-1}{r}$$ |
減債基金係数 | $$\frac{r}{(1+r)^n-1}$$ |
資本回収係数 | $$\frac{r(1+r)^{n}}{(1+r)^{n}-1}$$ |
年金現価係数 | $$\frac{(1+r)^n-1}{r(1+r)^n}$$ |
また、数式化に伴って以下の3つの関係が判明しました。
【1】終価係数=1/現価係数
【2】年金終価係数=1/減債基金係数
【3】資本回収係数=1/年金現価係数
互いに逆数の関係にある2つの係数は、一方が分かればもう一方が分かるということですね。
実はこれ以外にも面白い関係が成り立っていることが分かります。
お気づきでしょうか。
以下の2つの関係式が成り立っています。
【4】資本回収係数=終価係数×減債基金係数
【5】年金現価係数=現価係数×年金終価係数
なお【4】と【5】はそれぞれ逆数の関係にある3つの係数で成り立っているため、実際には同値な関係式です。
【1】~【3】の関係によって6つの係数は事実上「3つの係数」で事足りることがわかりましたが、【4】(または【5】)の関係があるため、更に「2つの係数」まで絞ることが出来ます。
これは、
6つの係数のうち逆数の関係に無い2つの係数がわかれば、残り4つの係数は全て求めることが出来る
ことを意味します。
例えば「現価係数」と「年金現価係数」が与えられれば、他4つの係数は一意に求まるのです。
これは、なかなか面白い事実だとは思いませんでしょうか。
FP受験者を苦しめた6つの係数は、実は2つの係数の分身だったのです!
まとめ
- FP試験頻出の「6つの係数」を算出する数式を数学的に導出した
- 6つの係数はそれぞれ逆数の関係にある3つの組に分けられることがわかった
- 6つの係数のうち逆数の関係に無い2つの係数が与えられれば他4つの係数も簡単に求まることがわかった
最後までお読みいただきありがとうございました。
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