導入が来年(2023年)に迫ったインボイス制度について賛否両論あることは理解できますが、反対派の中にはインボイス制度について事実と異なる内容を堂々と拡散している方を多数見かけます。
賛否の議論には、制度の正しい理解が前提となります。
そこで今回はインボイス制度に関する誤解の中でも、著名な作家や政治家等が拡散していた「インボイス登録すると屋号(ペンネーム)で活動している個人事業主の氏名や住所がバレる」という誤解を解いていこうと思います。
はじめに
以下はインボイス制度に関する情報のやりとりをまとめた画像です。
こちらの画像に重要なポイントはすべて含まれていますので、これで理解できる方は以降お読みいただかなくて構いません。
この画像でも理解できなかった方のために、以降では詳細な解説をしていきます。
「氏名・住所がバレる」という事象は、以下の二つに分けられます。
- 取引先にバレる
- 第三者(ファン等)にバレる
それぞれについて確認していきましょう。
取引先に氏名・住所がバレる?
金銭の授受が発生する契約において、相手の素性が分からない状態で契約するということは通常考えられません。報酬の振込のためには口座情報が必要ですし、万が一契約不履行があった際には訴訟を行うことになりますが、その際に個人の特定が必要なため、契約段階で氏名や住所は伝えているはずです。
少なくとも、インボイスを発行するような取引(=課税事業者との取引)において取引先に氏名・住所を開示してないという状況はあり得ないでしょう(もしあるのなら、そもそもインボイス云々の前に健全な契約行為とは言えません)。
したがって、そもそも「インボイス登録によって取引先に氏名・住所がバレる」という問題は存在しないのです。
補足ですが、インボイスを発行するのは課税事業者との取引ですので、個人との契約においてインボイスを発行する(=登録番号を知られる)ことはありません。例えば
「ペンネームで活動するイラストレーターが、SNSを通じてアイコンのイラスト制作を受託(報酬はAmazonギフト券)」
というようなケースは、そもそもインボイスの対象外ということです。
第三者に氏名・住所がバレる?
続いて、第三者に氏名・住所がバレる可能性を考えてみます。
個人事業主が希望して住所や屋号を公開していない限り、第三者が個人事業主の住所を知ることも、氏名と屋号を紐づけることも出来ません。
したがって「インボイス登録しただけで氏名・住所を第三者に知られる」ということはありません。
唯一考えられるのは個人事業主との取引先が「氏名と屋号の組み合わせ」「屋号と登録番号の組み合わせ」「屋号と住所の組み合わせ」といった個人情報を第三者に漏洩した場合ですが、そもそも個人情報を漏洩する時点でコンプライアンス違反であり、インボイス制度導入によってそういった行為のリスクが高まるわけではありません。
したがって、インボイス制度の導入により第三者に氏名・住所を知られるリスクが高まることはありません。
よくある質問(誤解)への回答
以上より、「インボイス登録すると屋号(ペンネーム)で活動している個人事業主の氏名や住所がバレる」というのは誤解であることがご理解いただけたかと思います。
最後によくある質問(誤解)への回答をまとめておきます。
Q:個人事業主が希望していないのに、うっかり住所や屋号を公開してしまう可能性があるのでは?
A:住所や屋号を公開したい場合は別途「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」を提出する必要があります。従って個人事業主本人が希望していないにもかかわらず住所や屋号が公開されるという状況が起こることは考えにくいです。詳しくはこちらの公式情報をご参照ください。
Q:同姓同名の個人事業主がいたら特定できないので、取引先が住所や屋号の公開を強いるのではないか?
A:取引先は発行されたインボイスが正当なものかを確認することが目的で、登録番号(ユニーク)で検索してヒットした氏名が契約相手と同じものであることを確認します。氏名で検索するわけではないため同姓同名の人がいようと関係なく、わざわざ住所や屋号の公開を強いる理由が無いと考えます。
Q:(更問)登録番号による検索で正当なインボイスであると確認できることは理解したが、取引先が本当に個人事業主本人のインボイスかを確認したい場合に、住所や屋号の公開を強いるのではないか?(個人事業主が同姓同名の他人に成りすまして他人の登録番号でインボイスを発行している可能性を排除できないのではないか?)
A:万が一そこまで疑うのなら、個人事業主にインボイスの登録通知書(登録番号が記載された書類)を見せてもらえば済む話であり、わざわざ住所や屋号を公開させる必要はありません。
Q:たとえ氏名だけでも第三者に知られるのは嫌なのだが?
A:第三者にわかることは「氏名〇〇の個人事業主がいる」という事実のみで、その他個人情報とは何ら紐づかないため、当該の個人事業主には何の実害もありません。
もう少し詳しく言いますと、個人を特定し得る氏名以外の情報(住所、屋号、顔、etc…)と氏名が紐づいて初めて「氏名を知られた」状態になるのであって、氏名だけ認知されただけでは「氏名を知られた」とは言えません。例えばこの記事を読んだあなたが「田中一郎」という名前を今知ったとして、実在する田中一郎さんは何か困るでしょうか。困らないですよね。そういうことです。
Q:悪意のある第三者が個人事業主として課税事業者になり、個人事業主と契約してインボイスを発行させることで個人情報を取得・漏洩することができてしまうのではないか?
A:悪意ある第三者との契約による個人情報の漏洩は、インボイス登録の有無とは関係なく存在するリスクです。一般的には、契約書で業務上知り得た情報を私的に利用したり第三者に許可なく開示しないよう秘密保持に関する条項を盛り込むことでリスクを低減することになります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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