こんな言葉を聞いたことはないでしょうか。
「高校受験と大学受験で偏差値は10下がる」
学校や塾の先生などが、偏差値が高めの高校に入った生徒に対して「大学受験は甘くないぞ」ということを伝える際に、脅しのニュアンスを込めて使われることが多いセリフでしょう。
今回はこれが本当なのかを考えます。
なお本記事では極力数式での議論を避け、誰にでもわかるように簡単に説明します。
偏差値とは
偏差値とは、母集団(比べる全員)の中の相対位置(上から何番目くらいにいるか)を表す数値です。
母集団のちょうど真ん中が偏差値50で、それより上位であれば偏差値が高く、下位であれば偏差値が低くなります。
「母集団の中の相対位置」というのが重要なポイントで、母集団が変われば偏差値も変わります。
例として、あなたの体重の偏差値を考えてみましょう。
あなたが幼稚園児の中に入れば偏差値は50よりずっと高く、相撲部屋に入れば50よりずっと小さくなりますよね。
偏差値50から上位または下位にいくほど、偏差値ごとの人数は減っていきます。
グラフにするとこんなきれいな分布(正規分布)になります。
正確にはいつもきれいな分布になるとは限らないのですが、母集団の人数が多い場合はおおよそこんな分布になりますので、以降では偏差値ごとの人数がきれいな分布(正規分布)になっていると仮定して議論を進めます。
高校受験偏差値
高校受験生の母集団
高校受験生の母集団は、高校受験をする生徒全員です。
今の日本ではほぼ全員が高校へ進学するので、中学3年生全員と考えてよいでしょう。
※中高一貫校に通う生徒もいるので全員が高校受験するわけではありませんが、彼らも中学時点で高校受験生向けの模試を受けたとすれば偏差値が出ますので、疑似的に「中学3年生全員が高校受験生」とみなしても問題ないでしょう。
高校受験生の偏差値・高校の偏差値
日本全国の高校受験生全員が受けるテストはありませんので、受験生が正確に自分の偏差値を測定することは出来ません。
受験する模試によって偏差値が変動することからも、実感としてご理解いただけるでしょう。
受験生は、複数回の模試を受けることで、おおよその自分の偏差値を知ることになります。
塾などが公表している高校の偏差値は、「模試で偏差値60の子がA高校に8割合格している場合、A高校の偏差値を60とする」といった具合に決めているようです。
塾によっては「50%偏差値(その偏差値の子が受けたら半分は合格する)」や「80%偏差値」といった複数の値を公表している場合もありますね。
模試の判定も、このような統計情報を基にした合格%偏差値を用いて行われています。
大学受験偏差値
大学受験生の母集団
大学受験生の母集団は、大学受験をする生徒全員です。
高校卒業後に就職したり、短大や専門学校など大学以外に進学する生徒もいますので、高校3年生全員ではありません。
文部科学省の令和2年度学校基本調査調査結果によると、高校卒業者の大学進学率は54.4%とのことですので、議論を簡単にするため、高校受験時に上位54.4%(=大学進学率)だった生徒を大学受験の母集団とします。
※実際には下位校からの大学進学や上位校からの就職等もありますが無視します。また浪人生は前学年からの増加分と後学年への減少分でほぼ相殺されること、再受験生(社会人として働いた後に大学受験をする人)は、数が少ないことから無視します。
大学受験生の偏差値・大学の偏差値
こちらは高校受験と同様に、受験生の偏差値は模試での偏差値、大学の偏差値は予備校等が公表している偏差値(合格%偏差値)とします。
高校受験偏差値と大学受験偏差値の関係
いよいよ本題です。
高校受験偏差値と大学受験偏差値にはどのような関係があるか計算してみましょう。
まずは高校受験の偏差値を上位%に変換します。正規分布であることを仮定したので、正確に計算できます。
見方は「偏差値70であれば上位2.28%(つまり1万人の中で228位)」といった具合です。
高校受験で上位54.4%に位置する偏差値は、48.895になります。つまり、大学受験生の高校受験時点での偏差値の最低値が48.895ということになります。
続いて、高校受験時の上位%を大学受験の上位%に変換します。単に高校受験上位%の値を54.4%で割るだけです。
さらに、大学受験の上位%を偏差値に変換します。こちらも正規分布を仮定しているため正確な値を求めることができます。
なお上位%⇔偏差値の変換はExcelの関数で簡単に行えます。詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
最後に、高校受験偏差値と大学受験偏差値の差を計算してみます。
高校受験偏差値が低いほど大学受験偏差値との差が大きくなっています。
高校受験偏差値が52が大学受験偏差値で42.5と9.5下がっていますので、表題として掲げた「偏差値が10下がる」が当てはまるのは、概ね高校受験偏差値で50代前半の生徒だと言えるのではないでしょうか。
高偏差値帯ほど低下の幅は小さいですが、それでも偏差値が下がることがお分かりいただけるでしょう。「10下がる」は大げさかもしれませんが、塾や学校の先生が「高校受験の偏差値をに胡坐をかいて勉強をサボっちゃだめだぞ」と言いたくなる気持ちはわかります。
大切なこと
高校受験偏差値と大学受験偏差値の変換を行いましたが、これは「高校受験時の順位のまま大学受験を迎えた場合」の話です。
上記の議論から言えることは「高校受験で偏差値70だった生徒は、(そのままの順位で行けば)大学受験偏差値67.3になる」ということであって、「高校受験で偏差値70だった生徒は、(勉強しなくても)大学受験偏差値67.3の大学に合格できる」わけではありません。
もちろん「高校受験で偏差値55だった生徒は、(勉強しなくても)大学受験偏差値48.3の大学にしか合格できない」わけでもありません。
高校入学後の勉強への取り組み方で、順位は大きく入れ替わります。
高校受験で臨んだ結果が得られなかったために猛勉強して順位を上げる子もいれば、第一志望の高校に合格したことで気が緩み、遊び呆けて順位を落とす子もいるでしょう。
高校受験の結果に一喜一憂せず、高校入学直後から大学合格に向けてスタートダッシュを切ること、そして努力を継続することが大切です。
この記事が受験生やその親御さんのお役に立てば幸いです。
コメント