3列に並んでお待ちください

私がよく利用する駅(以下A駅)のホームでは、3列に並んで列車を待つルールだ。

ホーム上の乗車位置には「3列に並んでお待ちください」と書かれているし、ラッシュ時間帯は駅員が繰り返しアナウンスで案内しているため、「3列に並んで待つ」ルールはA駅の利用者なら誰もが認知しうるルールだ。

もちろん待機列の列数は2列だったり4列だったり駅によってルールは異なる。おそらく混雑具合やホームの幅によって、最適な整列ルールが決められているのだろう。

ともかくA駅では3列に並んで待つルールになっている。

ところが！

A駅を利用すると結構な頻度で2列に並んでいる列に遭遇する。大抵の場合、3列のうち真ん中の列がぽっかり空いた状態になっているのだ。

そんな時、私は迷わず3列目の先頭、つまり空いている真ん中の最前列に並ぶのだが、たまにそのことに対して臆面もなく文句を言ってくる方がいる。ルールを破っている人間が、ルールを守っている人間に文句を言うという非常に奇妙な構図だ。

文句を言ってくるのは男女問わずで、年齢層も大学生から高齢者まで幅広い。

「並んでるんですけど」

「割り込みはダメですよ」

私に対する第一声はだいたいこんなニュアンスである。

「この駅は電車を待つとき3列で並ぶルールです。ご存知ですよね？こちら(足元)にも書いてあります。にもかかわらず誰も3列目に並んでいないので、私が並んだのです。割り込みではありません。私は何か間違ったことをしていますか？」

このように返すと、たいていの人は謝ったうえで身を引く。

そりゃそうだ。ルールを破っているのは自分であり、ルールを守っている私を非難する大義名分など何もないのだから。

舌打ちをしてガンつけてくる輩もいるが、実害はないので可愛いもの。

それでも食い下がってくるアホが過去に2人いた。いずれもオラついている大学生くらいの男性。1人は大声で恫喝まがいの暴言を吐き、もう一人は腕に掴みかかってきたので、いずれも駅員を呼んで事情を説明したところ、相手は(おそらく事務室まで)連行されていった。

なぜ彼らはルールを守らず、逆にルールを守る私に文句を言ってくるのか。

私は心理学の知識など何もないので勝手な想像だが、

「ルールを守ることよりも周りに流されることを優先する」

「ちゃんとルールを守る人間を非難する」

という2つの悪しき心理が、想像以上に多くの人に根付いているからではないか。

「ルールを守ることよりも周りに流されることを優先する」は、いわば「赤信号、みんなで渡れば怖くない」である。もう死語だが、”KY（空気読め）”というのも同義だ。

まぁ自分がルールを守らないだけなら、実害はない場合は百歩譲って良しとしよう。

勝手に赤信号を渡って勝手に轢かれればいい（轢く側のドライバーはたまったものじゃないか、、）。A駅の例でいえば、2列に並ぶ人行為だ。

しかしながら「ちゃんとルールを守る人間を非難する」まで行くと、それは社会秩序の崩壊の危機である。赤信号で止まっている人を非難し、暴言や暴力を駆使して無理やり渡らせようとする行為だ。

A駅の例でいえば、私に文句を言って来る輩の愚行である。

「英語の授業で正しい発音をする人を笑う」

「労基法違反行為を労基署に垂れ込んだ社員を”同僚の社員が”非難する」

こういった異常事態の根底にある心理も同じなのではないか。

このような悪しき心理を持つ人間が何故多数いるのかはわからない。日本人が生まれ持つ気質なのか、はたまた義務教育の中で培われるのか。そもそも日本人だけではないのか。1人だと発生しないが、複数人集まると発生する心理（集団心理）なのか。知らないし、知りたくもない。

私はもともと”空気を読む”というのが物凄く苦手なためか、正当な理由もなく”あえてルールを守らない”という心理も、ましてや”ルールを守る人を非難する”という心理も理解に苦しむ。

ただ、長い人生の中で

「ルールを守ることよりも周りに流されることを優先する」

「ちゃんとルールを守る人間を非難する」

という心理を持つ人がそれなりの割合で存在することも、社会生活で彼らと一切関わらないというのは不可能であることもなんとなく理解はしてきた。

だからこそ私は、「正々堂々とルールを守ること」「ルールを守る人を守ること」を大事にしていきたい。正しいふるまいを行う人が非難され、委縮しなければならない社会はおかしい。

ルールは理由があって定められているもの。

納得できないルールが存在するならば、まずルール（を定めた人や組織）に異議を唱えるべきであって、ルールを守っている人を非難するのはお門違いにも程があるのだ。

明日からも私は、3列目を作る。