突然ですが、以下の文章をどのように感じるでしょうか。
「休日は食事をコンビニ弁当で済ますことが多いがち」
言うまでもなく、文法的には正しくない表現です。正しくは以下の通りです。
「休日は食事をコンビニ弁当で済ますことが多くなりがち」
「がち」は名詞または動詞の連用形につく接尾語で、良くない傾向を表す表現です。
(例)病気がち 忘れがち
「多い」のような形容詞を使う場合には、連用形に動詞「なる」の連用形を伴って「多くなりがち」とするのが正しく、「多いがち」のように形容詞の終止形に直接「がち」を付けることは誤用です。
先日Twitterのタイムライン上に「多いがち」という表現を見つけ、今まで見たことのない誤用だったため「多いがち」で検索してみたところ、想像以上に使われていることに驚きました。
「多いがち」って表現が気になって検索したら、思ったより使われてて驚いた
— shelfall (@shelfall) April 27, 2021
正しくは「多くなりがち」だよね?
若者の間ではある程度普及してる表現なのかな? pic.twitter.com/HLavJ6ccnZ
さらに「多いがち」に限らず、「高いがち」「美しいがち」など幅広い形容詞において「形容詞の終止形+がち」の使い方が広まっていました。
「多いがち」に限らず、「形容詞の終止形」+「がち」って使われ方がかなりされてるみたい。
— shelfall (@shelfall) April 27, 2021
オッサンには全く聞き覚えのない表現なので、なかなか衝撃的。 pic.twitter.com/UIYNrYOB82
私の観測範囲に限った話ではありますが、フォロワーさんの反応・リプライから推測するに、どうやらこの「形容詞の終止形+がち」という表現は、概ね20代前半以下で普及しているようです。
また、彼らの多くは誤用であることは認識したうえで、あえてフランクな表現として使っているみたいです。面白いですね(当事者の若者にとっては当たり前で何が面白いのかわからないかもしれませんが)。
私はリアルでもネットでもそのような年代の若者とフランクなコミュニケーションを取る場面がここ数年なかったため、「多いがち」に触れる機会がなかったのでしょう。もし周りに「多いがち」を使う人が多くいる環境に置かれていたならば、自然と受け入れられていたのかもしれません。
自分の常識に当てはまらない文化や表現が、普段関わることのない若者達の間で想像以上に普及しているのを目の当たりにした時の戸惑いこそ、歳を取った証拠なのかな、と思いました。
また、自分の常識に当てはまらない文化や表現に出会った際には頭ごなしに否定せず、意図や経緯を調べる・尋ねることの重要性も再認識しました。それができないと、時代に取り残された老害になってしまうのでしょう。
ここからは私の推測ですが、2021年現在は「多いがち」を誤用と知りつつもわざと使っている人が多いものの、数年~数十年後には、一定の年齢層以下では正しい表現だと思って使う人が多数派になるかもしれません。
その時には「実はこの言い回しは誤用です!」といった指摘がバズったりするのかな、と想像すると楽しくなりました。
例えば「とんでもございません」という表現、今となってはビジネスシーンでも使われますが、文法的には誤りで、正しくは「とんでもないことでございます」なのだそうです。
言葉の移り変わりの過渡期を目の当たりに出来たこと、そこから学びがあったことに喜びを感じたため、文章にまとめておいた次第です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
【2021/4/30追記】
「多いがち」という表現がいつ頃から使われ始めたのか気になって調べてみました。
Twitterでは2010年から2011年にかけて使われ始めているようです。
いつ頃から「多いがち」「高いがち」が使われ始めたのか気になったので調べてみた。
— shelfall (@shelfall) April 30, 2021
Twitterだと「多いがち」は2010年12月、「高いがち」は2011年2月と意外と早い。
この頃の中高生から生まれた表現だとすると、彼らは2021年現在25歳前後になっているので辻褄が合う。 pic.twitter.com/FF2nlZOURc
当時中高生だった人たちが使い始めたと仮定すると、彼らは2021年現在ちょうど25歳前後になっていますから、20代前半以下でのみ認知・使用されていることと辻褄が合いますね。
コメント
衝撃的内容だった。話は変わりますが違くないという表現が気持ち悪い