先日こちらのポストが拡散され、賛否両論が巻き起こっていました
“賛”は主に青バッジの自称経営者界隈がほとんどだったのでお察しではあるのですが、”否”の理由を言語化してみたくなったため、本記事を書きました。
私はこのポストには2つの問題点があると考えています。
「給料は利益が出ないと払えない」は正しいか?
一般的に「利益」というのが「儲け」の意味であることは小学生でも知っていますが、企業会計上で利益と言われるものは5種類存在します。
(引用元)https://advisors-freee.jp/article/category/cat-big-02/cat-small-03/15002/
上の図で一番右の当期純利益が、全ての収入からかかったコストや税金を全て引いて会社に残ったお金であり、大衆からすると一番想像しやすい”利益”ではないかと思います。
従業員の給料は売上原価もしくは販管費に含まれます(業種によって異なります)。
したがって大衆の思う”利益”は既に従業員の給料を引いた後の残りですから、ここから「利益が出ないと給料が払えない」は間違いと受け取られるのは想像に難くないです。オフィスの賃料や光熱費と同様に、利益が出ようが出まいが、契約に則って払うべきものですからね。
一方で経営者は売上総利益(粗利)を重要視する傾向にあるので、従業員の給料が販管費に含まれる業種の経営者であれば、「給料は利益から出している」と考える気持ちはわからなくないです。
しかし、内容的に非経営者(労働者)に向けたポストであるにもかかわらず、対象である労働者と経営者で「利益」の意味するところが異なることを念頭に置いていなかったことが、問題点の1つ目です。
なお当期純利益で見ても、それが継続的に赤字だった場合は事業・会社の継続が困難になりますから、「利益が出続けないと会社が持たないので、給料を払い続けられない」という言い方ならばまだ良かったのかもしれません。
労働者は「言われた作業をこなせばお金がもらえる」でいい
どちらかといえばこちらの方が経営者としてクリティカルだと考えていますが、端的に言うと「経営者の責任を従業員に転嫁している」点が2つ目の問題点です。
おそらくポスト主は「従業員もどうやって利益を出すか考えろ」という認識なのだと思うのですが、それは経営者の仕事です。
経営者は事業(儲ける仕組み)を考え、それを実行するにあたって様々なリソースを確保します。リソースは、原材料、オフィス、光熱費など様々ですが、従業員もその一つです。
原材料メーカーに「納品しただけで代金が貰えると思っているのか?どうやったら儲かるか考えろ」と言いますか?
電力会社や水道局に「電気や水を提供しただけで代金が貰えると思ってるのか?どうやったらうちが儲かるか考えろ」と言いますか?
言いませんよね。言われたものを提供し、代金を受け取るだけ。
従業員も同じです。経営者から指示された時間、指示された業務内容に従事することで対価である給料を受け取る。これだけ。
利益を作るためには出来るだけ高く・たくさんの物を売り、コストを抑える必要があります。それを機能ごと分解し、組織化し、組織ごとのミッションを設定する。組織のミッションを担当・チームへとブレイクダウンし、最終的に従業員の業務内容を設定するわけですね。
ビジネスモデル構築→組織化→組織ごとのミッション設定→従業員の業務内容へのブレイクダウンが正しく行われていれば、従業員は「言われた作業をするだけ」で会社は儲かるはずです。
従業員が言われた作業をしているのに経営者が想定した利益が上がっていないのであれば、上記プロセスのどこかに問題があり、経営者の責任です。
実際のところ従業員の中でも管理職(管理監督者)や役員は売上や利益創出、配下の従業員の管理がミッションになるので、グラデーション的に責任が課されてはいるものの、最終的には利益の多寡が経営者の責任であることに変わりはありません。
ちなみに「給料の3倍の売上を上げない社員は赤字社員だ」などと言う経営者もいますが、赤字社員が誕生しているならば、それは給料設定/社員採用/社員教育/ビジネスモデル構築などに欠陥があり、やはりいずれも経営者の責任です。
そもそも売上を作れるのは営業や販売など直接物を売る業務に従事する社員に限られます。企画、開発、法務、財務、人事、情シス…売上は生まないがビジネスの歯車として重要な組織・業務も多くあり、すべての従業員を売上や利益貢献で評価できるわけがないのですよね。
長々と書いてしまいましたが、まとめると経営者には「従業員が言われた作業をこなせば会社が儲かる仕組みを作る」という責任があるのに、従業員に「言われた作業をこなせば給料をもらえると思うな(どうやったら会社が儲かるかを考えろ)」と言った趣旨で責任転嫁しているように見えてしまった点が、問題点の2つ目ではないでしょうか。
従業員も取引先であることを忘れてはいけない
ビジネスは簡単に言えば「安く仕入れて、高く売る」が基本です。
買う立場では出来るだけ安く。売る立場では出来るだけ高く。商取引では買い手・売り手が常にその心理戦を繰り広げているわけですが、企業(経営者)と従業員の関係も同じです。
できるだけ安い給料で従業員を雇い、出来るだけ利益を出したい経営者
できるだけ高い給料を得て、出来るだけ楽に働きたい従業員
終身雇用・買い手市場の時代ならいざ知らず、転職・副業が当たり前で人出不足の売り手市場の現代において、従業員に給料以上の仕事をさせ、自らの経営責任の一端を負わせるような思考の経営者は、まともな人材の確保が出来ずに立ち行かなくなるでしょう。
ポスト主のその後の反応を見ると、当該ポストはインプレッション目当てであえて否定意見が出そうな書き方をした可能性もありそうですが、引用やリプライに沸いている青バッジの中には”ホンモノ”の無能ブラック経営者も混ざっていそうなので、闇が深いと感じました。
賢明な皆さんは、当該ポストのような内容の発言を本気でしてしまう経営者の元では、絶対に働かないようにしましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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